笑顔のプレゼント

2012年4月3日(火)更新:4
【介護 読者の体験談 こころの絆】
 80年間、兵庫県の実家で暮らしてきた母が、認知症のようになり一人暮らしが困難になったため、わが家へ引き取りました。
 食事や入浴、病院の付き添いなどに、いつの間にか心身ともに疲れ切り、笑顔を忘れていたのでしょう。ある日、母がポツリと言いました。
 「このごろの登美子は、本当の娘じゃないみたい。いつも笑っていた娘は、どこに行ったのかしら……」
 心にたたき込まれたようにショックを受けました。鏡を見ると、いつも笑っていた私はいませんでした。
 仏法には、親孝行をしたい時に、何もできなくても笑顔を見せることだとあります。介護の疲れは、簡単には言葉に表せませんが、深く反省しました。
 「田舎に帰りたい」と繰り返し言っていた母のさびしさを、感じ取れない冷たい心になっていたのでしょう。
 春に桜の木の下まで車椅子で出掛け、花びらを両手で受け取っていた“ピンク色の母の横顔”が、元気な母との最後の思い出。その年の夏に亡くなりました。
 もっと“笑顔のプレゼント”をしてあげればよかった、と心の底から感じています。 (聖教新聞 2012-04-03)