(1)「教育・青年」を共通目標の柱に掲げ 人間の尊厳輝く世紀を

2014年1月27日(月)更新:5
【第39回「SGIの日」記念提言(下)「地球革命へ価値創造の万波を」 創価学会インタナショナル会長 池田大作

 続いて、すべての人々が尊厳を輝かせて生きられる「持続可能な地球社会」を築くために、三つの角度から提案を行いたい。

 第一の柱は、教育と青年に関するものです。

 前半で、歴史家トインビー博士の「われわれ自身の努力を通じて、われわれの順番において何らかの新しい、先例のない変化を歴史に与える道がわれわれには開かれている」(『試練に立つ文明』深瀬基寛訳、社会思想社)との言葉を踏まえながら、民衆による民衆のための価値創造の挑戦について論じてきましたが、その力を引き出すエンパワーメントの源泉となるのが教育に他なりません。

 振り返れば、信念の闘争を貫いて出獄を果たしたマンデラ氏と初めてお会いした時(1990年10月)、新しい時代を建設するための最重要のテーマとして語り合ったのが教育であり、青年の育成でした。

 新生・南アフリカの建設の礎は教育にあるとの信念を持つマンデラ氏に対し、「100年先、200年先という未来を展望するとき、国家の発展の因を何に求めるか。それは『教育』である」との強い共感を、お伝えしたことを懐かしく思い起こします。

 対話を通して、“教育こそ、人間の尊厳を照らす光源である”との信念を私たちは強め合いましたが、そうした教育は一国の単位に限らず、人類全体の未来の命運を握るものと言っても過言ではありません。

 マンデラ氏が1万日に及ぶ獄中闘争を勝ち越えたのも、絶えず自身に“教育の息吹”を取り込み、恩讐を超えて平和と共生の社会を築くという夢を大きく育てていたからでした。

 「強固な壁の後ろに閉じ込めることができるのは、私の肉体だけなのです。私は依然としてコスモポリタン的な考えを持っています。心の中では、ハヤブサのように自由なのです。私のあらゆる夢の錨となっているものは、人類全体に共通する英知です」(『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』長田雅子訳、明石書店)と、精神の翼を広げ、ギリシャの古典劇を読んで逆境に屈しない心を鼓舞したり、仲間の囚人と獄中で“大学”を開いて、理想の未来をつくりあげる力を共に養うことを怠らなかったのです。

 世界で今、脅威に直面して深刻な苦しみを抱えている人々、社会を何としても良い方向に変えたいと願っている人々、そして、これからの未来を担いゆく若い世代にとって何より必要なのは、この「不屈の希望」と「人類の英知に学ぶという精神性」に裏打ちされた価値創造の力を育む教育ではないでしょうか。


《国連の新たな枠組みで「世界市民教育」を推進》
〈30年以上にわたり国連の活動を支援〉
 昨年9月、国連で「ミレニアム開発目標に関する特別イベント」が開催され、ミレニアム開発目標に続く新しい国際共通目標=注4=の制定に向け、今年9月から政府間交渉を開始し、来年9月の首脳級サミットで採択するとのスケジュールが決まりました。
 これまで私は、新しい国際共通目標の対象分野として、循環型社会の追求や防災・減災をはじめ、人権、人間の安全保障、軍縮などを掲げることを訴えてきましたが、今回、そのリストに「教育」を加える形で提案を行いたい。

 具体的には教育の分野において、「初等教育中等教育の完全普及」や「すべての教育レベルでの男女格差の解消」と併せて、「世界市民教育の推進」の項目を共通目標に盛り込むことを提唱するものです。

 そして特に三つ目の項目を軌道に乗せるために、今年で終了する「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の後継枠組みとして「世界市民教育プログラム」を新たに設け、国連と市民社会との協働プロジェクトとして進めることを呼び掛けたい。

 「世界市民教育」の重要性は、40年以上前に行ったトインビー博士との対談以来、各国の指導者や識者との対話を重ねる中で、私が一貫して強調してきたテーマであります。87年に発表した提言では、具体的な構想として、環境、開発、平和、人権の四つの分野を軸に、人類的価値を追求する「世界市民教育」の推進を提唱しました。

 この構想は、SGI(創価学会インタナショナル)が82年にニューヨークの国連本部で「核兵器――現代世界の脅威」展を開催して以来、国連の世界軍縮キャンペーンの一環として各国での巡回を進める中、"地球的問題群の解決には教育が不可欠の要素になる"との年来の信念を一層深め、提案したものでした。

 その後も89年から「戦争と平和」展を行ったほか、95年に始まった「国連人権教育の10年」や2000年以降の「平和の文化」に関する国連の一連の取り組みを、市民社会の立場から支援するために、「現代世界の人権」展や「世界の子どもたちのための平和の文化の建設」展などを開催し、草の根の意識啓発に全力を注いできました。

 また、他のNGO(非政府組織)と協力して、「ESDの10年」の制定と人権教育の国際枠組みの継続を訴え、2005年に「ESDの10年」と「人権教育のための世界プログラム」がスタートしてからは、この二つの国連の枠組みを支援する活動にも積極的に取り組んできたのです。

 このほか、持続可能な未来のための人間の行動規範と価値を謳った「地球憲章」の制定作業を支援し、その精神を普及するための活動を進めてきました。

 こうした30年以上にわたる活動を通し、さまざまな分野で連携と協力を深めてきたNGOとともに、2年前のリオ+20(国連持続可能な開発会議)では、公式関連行事として「私たちが創る未来」と題する円卓会議を開催しました。来月にはニューヨークで、「世界市民と国連の未来」をテーマにした円卓会議を行う予定となっています。

 リオの円卓会議で浮かび上がったのは、教育を問題への理解を深めることだけに終わらせず、一人一人が内面に備わる無限の力に目覚めていく「エンパワーメント」の触媒となり、時代変革への行動に勇んで立ち上がる「リーダーシップの発揮」の揺籃となるよう、教育を一連のプロセスとして追求する重要性です。

 その意味で、これまでの国連による活動の成果を踏まえつつ、次なるステップとして、「一人一人のエンパワーメント」から「すべての人々による価値創造の挑戦」までのプロセスを重視する新たな教育枠組みについて、検討を開始すべきではないでしょうか。


〈他国の犠牲の上に繁栄を追求しない〉
 そこで、「世界市民教育プログラム」の骨格に据えることが望ましいと考える三つの観点を提起したい。

 一、人類が直面するさまざまな問題への理解を深め、その原因に思いを馳せる過程を通じて、「どんな困難な問題でも人間が引き起こしたものである限り、必ず解決することはできる」との希望を互いに共有していくための教育。

 一、グローバルな危機が悪化する前に、それらの兆候が表れやすい足元の地域において、その意味を敏感に察知し、行動を起こしていくための力をエンパワーメントで引き出しながら、連帯して問題解決にあたることを促す教育。

 一、他の人々の苦しみを思いやる想像力と同苦の精神を育みながら、自国にとって利益となる行動でも、他国にとっては悪影響や脅威を及ぼす恐れがあることを常に忘れず、「他国の人々の犠牲の上に、自国の幸福や繁栄を追い求めない」ことを、共通の誓いに高め合うための教育。

 以上、三つの観点を提起しましたが、こうした点を加味した「世界市民教育」を、各国の中等教育や高等教育のカリキュラムに盛り込むことと併せて、市民社会が主体となって生涯学習の一環としてあらゆる機会を通じて進めていくべきではないでしょうか。

 国連の潘基文事務総長も2年前に、教育を国際社会の最優先課題にする「グローバル・エデュケーション・ファースト」のイニシアチブを立ち上げ、その柱の一つに地球市民の育成を掲げています。このように、国連においてグローバルな意識の涵養を重視する動きが見られることは、誠に心強い限りです。

 11月に名古屋市で行われる「ESDに関するユネスコ世界会議」でも、この地球市民の教育に対するESDの貢献と今後の取り組みが協議される予定であり、会議の成果などを踏まえながら、「世界市民教育プログラム」の制定を目指すべきだと思うのです。

〈若者たちをめぐる雇用環境の改善を〉
 続いて、この教育と並んで、新しい共通目標の対象に含めることを提唱したい分野は「青年」です。

 世界人口の4分の1を占める青年は、共通目標の影響を最も強く受ける世代であると同時に、その達成を図る上で最も影響力のある存在に他なりません。ゆえに世界の青年が、より良き社会を建設するための価値創造に積極的に挑戦できるような道筋を、共通目標に組み込む意義は大きいのではないでしょうか。

 具体的には、(1)「ディーセント・ワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)の確保に各国が全力を挙げること、(2)社会が直面する問題を解決するプロセスに「青年の積極的な参加」を図ること、(3)国境を超えた友情と行動の連帯を育む青年交流を拡大すること、の3項目を目標に設定することを提案したい。
 世界では現在、失業者が約2億200万人に達し、約9億の人々が仕事があっても1日当たり2ドルの貧困線を上回る収入を得られないと推定されています。

 特に若者をめぐる状況は厳しく、定職がない状態が続いたり、仕事があっても低賃金、劣悪な職場環境、不安定な雇用形態、男女間の待遇の格差などに苦しむ状況が広がっています。

 この状態が長引けば、多くの若者の尊厳が深く傷つけられ、未来への希望と生きる力を失ってしまいかねません。国際労働機関でも「ディーセント・ワーク」の確保に向けた努力を各国に呼び掛けていますが、その追求を共通目標で明確に掲げることで、状況改善の勢いを本格化させるべきであると思うのです。

 また2番目の、青年の問題解決への関与は、今後の世界を考える上で絶対に外せない要素であり、昨年9月にコスタリカで行われた「グローバル・ユース・サミット」の宣言でも、青年たちによる要請として強調されていた点でした。

 私も2006年の国連提言などで訴えてきたところであり、その一環として国連が昨年8月に開設した、青年のためのオンライン国連プラットフォームを強く歓迎するものです。

 各国でも同様に、青年の声を反映する仕組みを整備する努力を加速させるべきではないでしょうか。

 3番目の青年交流の拡大は、学生中心に進められてきた各種の交流をさらに幅広く青年一般に広げて定着させることを、国際社会の合意として共通目標に掲げることが望ましいと考え、提案したものです。

 その意義は、相互理解の深化や関心の継続だけにとどまりません。

 交流を通じて育まれた友情や心の絆は、憎悪や偏見に基づく扇動や、集団心理に流されない“防波堤”となっていくものです。

 どの国においても軍事力への依存と排他的な政治に歯止めをかけ、平和で人道的な社会を築くには、「他国の人々の犠牲の上に、自国の幸福や繁栄を追い求めない」という世界市民意識を持つ人々――なかんずく青年世代の裾野を広げることが欠かせません。

 顔と顔を合わせ、同じ時間を過ごす中で育んだ友情は、それぞれの国で次代を担う青年たちの心に「不戦への誓い」を一つまた一つと灯しながら、「地球的問題群の解決に向けた行動の連帯」という実りをもたらす、人類にとって無上の宝となるものです。

 創価学会でも、社会が直面する問題を青年の視点から考え、青年による行動の連帯を広げることを目指す運動「SOKAグローバルアクション」を、今年からスタートしました。

 他のNGOや諸団体とも協力しながら、青年が問題解決の最前線で行動する時代を力強く切り開いていきたいと思います。 (次頁へ続く)

   (聖教新聞 2014-01-27)