ささげた誠は、受け継ぎ守る人を得て、百年千年の時を潤し流れる

2013年8月12日(月)更新:4
【名字の言】
 東京・新宿駅の南東に広がる新宿御苑。月曜日を除く日中、「玉川上水内藤新宿分水散歩道」が無料開放されている。同地の地下を流れる玉川上水を模して新宿区が整備し、昨年に完成した。往時(おうじ)を思わせるせせらぎに、心が癒やされる▼玉川上水は今から360年前、江戸幕府の命を受けた玉川庄右衛門(しょうえもん)、清右衛門(せいえもん)兄弟によって開削(かいさく)された。上流域では、今も水道水の原水として使われる。創価学園生の通学路に沿って流れる辺りは、27年前、都による再生水の放流事業によって、清流が復活した▼上水は、わずか8カ月で完成したが、事業は困難の連続だった。多摩川の取水口(羽村市)から終点の新宿御苑付近に至る43キロは、ほぼ平たん。標高差は92メートルしかない。一説には、微妙な勾配を見極めるため、線香束の火を光源にした方法で、夜間に測量を重ねたという▼地質の問題による経路変更もあった。幕府から与えられた資金が底をつき、玉川兄弟は家を売って事業を続けたという。“水不足に苦しむ庶民のため”という大情熱が、兄弟を突き動かした▼羽村取水堰(せき)の近くには2人の銅像が立ち、流れを見守る。人の寿命は尽き果てても、ささげた誠(まこと)は、受け継ぎ守る人を得て、百年千年の時を潤し流れる。(行)
   (聖教新聞 2013-08-05)