いじめと向き合う

2013年8月25日(日)更新:3
【特集 いじめと向き合う もう一度、お互いを信頼することから始めよう。】
水谷修さん(夜回り先生) 世の中に温かい笑顔と優しい言葉をあふれさせたい 
 橋元太郎さん(創価学会男子部長) いじめは社会全体の病。私たち一人一人の問題です。》
 橋元 「大津いじめ自殺事件」をはじめ、繰り返される悲惨ないじめを前に、どう向き合うべきか、青年世代として最重要の課題だと捉えています。
 水谷 学校は子どもの命を預かる以上、どこよりも安全でなくてはいけない。暴力や犯罪行為は許されません。もちろん教師による体罰もです。学校といえども、犯罪には警察などが入って、法に照らして対処するべきです。
 橋元 犯罪に至らなくても、いじめが原因で不登校になったり、いつ自分がいじめられるかと傍観し、加担する中で、子どもたちの心がむしばまれています。
 水谷 人間だから人の好き嫌いがあるのは当然です。でも、悪口や陰口、無視などの不健全な人間関係からくる行為が、いじめに発展しないように全力を尽くすのが学校・教師の役目です。もし犯罪性があるなら、各地域の人権擁護委員など、第三者機関と連携して迅速に解決するべきです。そこを見極める必要があります。
 橋元 本年、「いじめ防止対策推進法」が成立しました。一方、いじめ加害者を厳罰化しようという流れもある。しかし、制度面の改革だけでいじめをなくしていけるのか、正直、疑問があります。
 水谷 いじめが起きる根本を考えなくてはいけません。いじめる子の背景には、大人社会の問題がある。不況で苦しむ父親のイライラが家庭に持ち込まれ、母親も子どもを叱ってばかり。夫婦げんかが絶えず、子どもを虐待する場合もある。学校でもイライラしている教師に叱られる。どこにも発散しようがない子どもが、自分より弱そうな子をいじめる。
 橋元 いじめは単なる子ども同士の問題、学校の問題ではありません。社会全体の病であり、私たち一人一人の問題だと直視しなければ解決できません。
 水谷 その通りです。「夜回り」をしながら感じるのは、子どもの目力(めぢから)がなくなってきている。昔のように夜の街で非行に走るのはごく一部。多くは、不登校・引きこもりで悶々と悩み、自己肯定感をなくしている。心を病んで自分を責めてリストカットなどを繰り返している。
 橋元 私自身、鹿児島の中高一貫進学校で、偏差値至上主義の教育に不満を感じ、教師や大人への不信をもっていました。幸いにも大学時代、創価学会の信頼できる同志、そして師匠と出会って、人生が変わっていきました。
 水谷 出会いによって人は必ず変わることができます。それにしても、この国は勘違いしている。文部科学省の役人と話していても、教育の目的を“国の発展に寄与する人材の輩出“と捉えているところに大きな誤りがある。
 橋元 池田名誉会長も常々、教育を手段化する「社会のための教育」という考え方から「教育のための社会」への転換を訴え、行動しています。子どもの幸福こそが最優先の目的であり、そのために大人が最大の努力をするべきです。
 水谷 その中で教育への信頼が生まれる。しかし今、その信頼が失われているのが問題なんです。国も学校も教師も親も子どもも、お互いを信じられない。この不信の連鎖を断たなくてはいけない。
 子どもだって、罪を犯したら償っている。行政や学校は隠ぺいなどもってのほか、起きた事件に責任を取るべきです。親や大人も、もう一度、教育現場を信じることから始めてほしい。信頼されることで人は強くなり、力を出せるんです。
 橋元 本当にそう思います。創価学会の牧口初代会長、戸田第2代会長も教育者出身であり、戦前の画一的な教育に対し、子どもの自主性を重んじ、教師や地域の大人を含めた人格の触発を大切にする教育を提唱し、実践してきたことが創価学会の原点なんです。
 水谷 子どもたちの成長のためには、地域にいる経験豊かな大人との交流が大切です。また、退職教員の方々などの力を借りながら、勉強についていけなくなった子の学習支援などもできるのではないか。社会全体で子どもの知性と人間性を育てていきたい。
 橋元 先日も、同世代の青年教育者と話をした時、教師自身の成長なくして子どもたちを幸せにすることはできないという必死の思いを語っていました。創価学会教育本部の教員の方々が綴り続けている「教育実践記録」を読んで、子どもたちから学び、共に育つ「共育(きょういく)」という視点が大切だと実感しました。
 水谷 私自身、教師になりたてのころは生意気で、自分の理想を子どもに押しつけていた。でも、先輩に鼻っ柱を折ってもらって、以来、子どもが望む教師に、大人になろうと思ってやってきた。
 橋元 私は学会の活動の中で、いじめや人間関係、家庭の問題などから、人間不信に陥り、心を閉ざしてしまった若者と出会います。じっくり相手に耳を傾け、認めてあげることで、薄紙をはぐように自己肯定できるようになり、生きる気力を取り戻せると感じています。
 水谷 私も、子どもたちがどんなに自分を責めていても「いいんだよ」とまず受け入れ、話を聞く。そして粘り強く伝えます。何か人のためになることをやってみようって。
 宮城県に住む、リストカットを続けてきた女の子が、東日本大震災で家を津波に奪われて、避難所で暮らしていた。体育館で凍えていたおばあちゃんに自分の毛布をかけて、一緒にくるまって寝たら「ありがとう」って涙を流して喜んで、安心して寝てくれた。私、もう切らない、死にたいって言わないって、連絡をくれました。誰かの「ありがとう」という一言が、生きる勇気になるんです。
 橋元 人を信じ、人のために何かを始めた時、人は変わる。そうした善の心が連鎖する社会を、大人が子どもたちと共に築いていくことが大切ですね。
 水谷 仏典にある「無財(むざい)の七施(しちせ)」の中に、“和顔施(わがんせ)”“言施(げんせ)”というのがある。温かい笑顔と優しい言葉を世の中にあふれさせていきたい。親は子どもを愛して、叱るのではなく誉めてあげてほしい。学校や大人は、暴力から子どもを守るという姿勢を示し、地域をあげて子どもの成長に尽くしていきたい。そういった社会からは、いじめはなくなっていくと確信しています。


創価学会教育本部による「教育実践記録」は、昨年度までに、6万5千事例を超えた。また、全国35都市で無料の「教育相談室」を開設。これまで37万人以上の相談を受けてきた。
※相談室の開催場所一覧や申し込み方法、実践記録の内容は、創価学会公式サイト「SOKAnet」の教育コーナー(http://www.sokanet.jp/hbk/kyoiku.html)を参照ください
   (聖教新聞 2013-08-24)