未来の使者

2013年11月6日(水)更新:1
・『対応力』
http://d.hatena.ne.jp/yoshie-blog/20180914


【新・人間革命 若芽 十】
 黒板の前で思案顔で立っている西中忠義に、山本伸一は言った。
 「何をしていいか、困っているようだね。それでは、国語の授業をやってください」
 伸一が助け舟を出した。
 西中は、「はい」と言って頷くと、黒板にチョークを走らせた。
 「みらいのししや」
 彼は、「みらいのししゃ」(未来の使者)と書いたつもりであった。
 西中は、児童たちに語りかけた。
 「これは、あなたたちのことなんです。さあ、読める人は大きな声で読んでください」
 子どもたちは、頭をひねっている。
 その時、伸一が声をあげた。
 「西中先生! それでいいんですか?」
 「はあ?」
 西中は、けげんな顔で伸一を見た。
 「ここで間違っちゃいけません。『みらいのししや』と書いてありますよ。それでは、将来、『獅子屋』という名の店を継ぐことになってしまう。好意的にとらえても、関西弁で、『未来の師子や』と言っていることになる。やはり授業は、標準語でお願いしたい」
 教員たちの間から笑いが起こった。
 伸一は、笑みを浮かべて児童に言った。
 「皆さんは、大切な『未来の使者』であると、西中先生は言おうとされたんです。
 しかし、字を書く時には、こういう字を書いてはいけません。『ししゃ』と書くには、『や』の字は小さく書くんです。
 これは間違いであると教えるために、西中先生は書いてくださったんですよ」
 「えーっ」
 児童から声が漏れた。
 また、笑いが広がった。
 入学式前の東京創価小学校の教室には、まだ、なんの花も飾られてはいなかった。しかし、”最初の授業”には、ほのぼのとした微笑の花々が咲き薫った。
 教育は、緊張を強いることから始まるのではなく、緊張をほぐすことから始まるのだ。
   (聖教新聞 2013-10-31)