(4)核時代に終止符打つ宣言を

2014年1月27日(月)更新:8
・『(3)隣国との友好こそ世界平和の基盤 「日中韓の首脳会談」開催を』
http://d.hatena.ne.jp/yoshie-blog/20190823


核兵器の本質を剔抉(てっけつ)した戸田会長〉
 そして、もう一つの鍵となる動かし難い共通点とは、広島と長崎への原爆投下以来、68年間にわたり、どの国も、どの指導者も、核兵器を使用しなかったという事実です。それは、冷戦の終結前も終結後も変わることはありません。

 この点を考えるにつけ、思い起こされるのは、広島と長崎への原爆投下を決断したトルーマン大統領が、その3年後(1948年)に述べた保有国の指導者としての自戒の言葉です。

 「これは軍事的な兵器ではないことを理解しなければならない。女性や子ども、武装していない人々を消し去るために使用された兵器であり、軍事的なものではなかった。ライフルや大砲といった、普通の兵器とは違う扱いをしなければならない」(前掲『核のアメリカ』)

 ソ連がアメリカに続いて核実験を成功させたのは、翌49年でした。以来、抑止論が世界を覆うようになって今にいたるわけですが、「軍事的な兵器」でもなく「普通の兵器とは違う扱いをしなければならない」という核兵器の性質を、多くの指導者が核のボタンの責任を背負う中で知らず知らずのうちに感じ取ってきたことが、“核不使用の楔”になってきたのではないかと思えてなりません。

 新しい動きとして昨年、国連総会の決議に基づき、多国間核軍縮交渉を前進させるためのオープン参加国作業部会が設置され、協議が行われましたが、この決議を主導したオーストリアは、6月に提出した文書で次のような問題提起をしていました。

 「核兵器のない世界を達成し維持するという普遍的な目標では、全ての国家が一致している。しかし、核兵器の後戻りのできない廃絶に向けた最も効果的な道筋に関する共通の認識はない。この認識の溝に橋を架けるにはどうしたらよいだろうか?」(ピースデポ「核兵器・核実験モニター」第429号)

 私は、核兵器の人道的影響に関する共同声明に基づく連帯と、トルーマン大統領に端を発する“他の兵器とは異なる核兵器の性質”を感じながらも安全保障上の観点から保持してきた指導者との間に架ける橋は、「誰も核兵器がもたらす壊滅的な人道的結果を望んでいない」との思いではないかと考えるのです。

 核開発競争が激化していた57年9月に「原水爆禁止宣言」を発表し、世界の民衆の生存権を脅かす核兵器の本質について剔抉した私の師・戸田第2代会長は、その宣言に先駆ける形で、「世界にも、国家にも、個人にも、『悲惨』という文字が使われないようにありたい」(『戸田城聖全集第3巻』)と訴えていました。

 先の共同声明で核兵器の使用について掲げられた「いかなる場合にも」との文言に対し、安全保障のための軍事オプションが制約されることへの懸念を、真っ先に考えてしまう指導者は少なくないかもしれません。しかし、その文言を「いかなる人にも」と、壊滅的な人道的結果を被る一人一人の立場に置き換えてみれば、核兵器の使用を正当化できるような例外的事由を設けることが、果たして許されるのかどうか。

 「武装していない人々を消し去る」という、まさにレッドライン(越えてはならない一線)を越えた、核兵器がもたらす壊滅的な人道的結果は、世界の民衆の生存権を根本から脅かすものとして戸田第2代会長が指弾していたように、「どの国であろうと」「誰であろうと」受け入れ難いものであるとの思いを共有することが、安全保障上の理由から核兵器の使用を容認する思想を乗り越える鍵になると思うのです。


〈不使用協定に向け日本は積極貢献を〉
 以前から私は、原爆投下から70年となる来年に「核廃絶サミット」を広島と長崎で開催することを提唱してきましたが、このサミットの開催をもって、国や立場の違いを超えて「核兵器のない世界」を求める人々が集い、同じ地球に生きる人間として行動を誓い合う場としていくべきではないでしょうか。

 具体的には、先ほどの共同声明に賛同する国々や、NGOの代表をはじめ、保有国を含む各国の青年たちを参加者の主軸に据えていくことで、「世界青年核廃絶サミット」と銘打って、核時代に終止符を打つ誓いの宣言を青年が中心となって取りまとめ、宣言の採択を機に新たな行動を起こすことを呼び掛けたい。

 その上で、この開催に加えて、具体的な課題として二つの提案を行いたいと思います。
 一つ目の提案は、来年のNPT再検討会議で「核兵器の壊滅的な人道的結果」を中心議題の一つに取り上げ、核軍縮の誠実な追求を定めたNPT第6条の履行を確保する措置として「核兵器の不使用協定」の制定に向けた協議プロセスを立ち上げることです。

 そもそもNPTの無期限延長が95年に決まった時から、非保有国に対して保有国が核攻撃をしないという「消極的安全保障」を法的拘束力のある文書で定めることは、大きな課題となってきました。

 私はこれを、NPT加盟国に核兵器を使用しないことを“NPTの基本精神に根差した義務”として保有国が遵守する協定へと発展させる形で、成立を図るべきだと思います。

 その目的は、「不使用協定」を通し、核兵器の存在がそれぞれの地域にもたらしている不安定要因を大幅に取り除き、核兵器の役割を縮小させる道を現実に開くことにあります。

 2010年のNPT再検討会議での最終文書では、保有国が速やかに取り組むべき措置を列挙し、今年の準備委員会で「履行状況を報告すること」に加えて、来年の再検討会議で「NPT第6条の完全履行に向けた次なる措置を検討すること」を求めています。

 その一つが核兵器の役割縮小であり、安保理常任理事国である5カ国の間でも「核兵器の不使用協定」の成立を期すことが強く求められます。2016年に日本で行われるG8サミットの開催に併せて、「『核兵器のない世界』のための拡大首脳会合」を行い、早期の協定調印を誓約することを呼び掛けたい。

 すでに2年前のNATO(北大西洋条約機構)サミットで、「核兵器の使用が考慮されねばならないような状況は極めて考えにくい」(梅林宏道監修『イアブック「核軍縮・平和2013」』ピースデポ)との認識が、NATO加盟国の一致した見解となっています。保有国は今こそ、NPTの誓約を果たす政治的意思を示し、それを協定へと結実させるべきではないでしょうか。

 また核兵器による拡大抑止には、冷戦時代にイギリスの国防相を務めたデニス・ヒーリーが提起した法則がみられると言います。

 ヒーリーによれば、ロシアの核攻撃を抑止するにはアメリカによる報復の確実性が「5%」あるだけで十分だが、“核の傘”の下にあるヨーロッパ諸国を安心させるにはアメリカが報復する確実性が「95%」も必要になる、と。その意味では、“核の傘”に依存してきた国々の方針が、現行の過剰なまでの核軍備を維持させる要因になってきたとも言えましょう。

 そこで「不使用協定」を成立させることによって、“核の傘”の下にある国々にも、新たな安心と安全の枠組みが確保できるようになれば、自国にも他国にも壊滅的な人道的結果をもたらす核兵器に安全保障を依存しなくても済む道が開かれ、核兵器の役割縮小の前提条件が整うことになるに違いありません。

 そして、「不使用協定」を突破口に、北東アジアや中東など非核兵器地帯が実現していない地域で、その前段階としての「核不使用地帯」の設置を目指すべきだと思うのです。

 “核の傘”の下にありながら、共同声明に賛同した日本は、被爆国としての原点に立ち返って、「不使用協定」の成立とともに、「核不使用地帯」の設置に向け、積極的に貢献することを強く望みたい。


〈懸念を解消させる制度的保障が重要〉
 二つ目の提案は、こうしたNPTに基づく枠組みと並行させる形で、核兵器の人道的影響に関する共同声明の取り組みなどを軸としながら、国際世論を幅広く喚起し、核兵器の全面禁止に向けての条約交渉を開始することです。

 私は2年前の提言で、条約と議定書のセットで核兵器の禁止と廃絶を図るアプローチを提案しましたが、例えば条約には「核兵器による壊滅的な人道的結果に鑑み、安全保障の手段として核兵器に依存することを将来にわたって放棄する」との趣旨の条文だけを設けて、具体的な禁止事項や廃棄と検証に関する内容は議定書で定めるという方式も考えられましょう。

 仮に議定書の発効に時間がかかったとしても、条約の締結で“核兵器は世界にあるべき存在ではない”との国際社会の意思が決定づけられ、それが必ずや、核時代の終焉につながっていくと確信するのです。

 その一つの方向性として、包括的核実験禁止条約=注6=の方式を踏襲し、厳格な発効要件を満たさない限り、議定書は発効しないとの構造を盛り込む考え方もあるのではないでしょうか。条約の主眼は「核兵器の使用を罰すること」ではなく、あくまで「禁止規範の確立とその普遍化」にあると考えるからです。

 共同声明に賛同した125カ国以外にも、安全保障上の理由で使用の禁止は容易に認め難いものの、壊滅的な人道的結果への懸念を共有する国は少なくないと思います。そこで、条約の基本構造に“安全保障上の懸念に対する配慮”が担保される制度的保障を組み込めば、より多くの国が安心して加盟できるようになるのではないでしょうか。

 この方式の是非はともあれ、「不使用協定」も最終目的にいたる橋頭堡にすぎないだけに、核兵器の禁止と廃絶に向けた挑戦を加速させることが急務であり、市民社会の連帯で後押しすることが欠かせません。


SGIの青年部が実施した意識調査〉
 その観点から重要となるのが、オスロでの国際会議に続く形で来月にメキシコで行われる「核兵器の人道的影響に関する国際会議」から、広島と長崎への原爆投下70年を迎える来年8月までの期間であると言えましょう。私どもSGIでも、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)をはじめ、「核兵器のない世界」の実現を求める多くの団体と力を合わせて、グローバルな民衆の意思――特に青年世代の声を結集していきたいと思います。

 SGIの青年部では、9カ国の青年層を対象にした「核兵器の非人道性」に関する意識調査を実施し、その結果を昨年4月にNPT再検討会議準備委員会のコーネル・フェルタ議長に提出しましたが、そこでは9割以上が核兵器を非人道的と考え、8割が禁止条約の制定を支持していることが明らかになりました。

 「核兵器のない世界」の建設は、核兵器の脅威を取り除くことだけが目標ではなく、平和と共生に基づく時代への道を民衆自身の手で切り開く挑戦に他なりません。そしてそれは、将来の世代を含めて、すべての人々が尊厳を輝かせて生きていくことのできる「持続可能な地球社会」の必須の前提となるものです。

 それが、21世紀に生きる私たち民衆が連帯して成し遂げるべき価値創造の挑戦であるとするならば、その最大の主役は青年です。

 次代を担う青年たちが、「核兵器による悲劇を誰にも味わわせてはならない」「核兵器と人類は共存できない」との思いを結集し、行動の連帯を大きく広げていけば、乗り越えられない壁などないはずです。

 私どもSGIは、核兵器の廃絶をはじめ、地球上から悲惨の二字をなくすために、青年世代の活動を柱に希望のビジョンを共有する人々や団体と協力し、価値創造の万波を力強く起こしていきたいと思います。

 
語句の解説

 注4 新しい国際共通目標

 国連が2015年を目指して進めてきたミレニアム開発目標に続く枠組みで、「ポスト2015開発アジェンダ」との名称で呼ばれる。現在、この検討作業と並行する形で「持続可能な開発目標」の内容検討も進んでいるが、最終的にはこの二つの流れが統合され、単一の共通目標として制定される見込みとなっている。


 注5 ASEAN地域フォーラム

 アジア太平洋地域の安全保障環境の向上を目的とした政府間フォーラム。1994年に第1回閣僚会合が行われて以来、信頼醸成の促進や予防外交の進展などが図られてきた。アメリカやロシアを含めた26カ国とEU(欧州連合)が参加し、災害救援のような非伝統的な安全保障分野での連携にも力が入れられている。


 注6 包括的核実験禁止条約

 大気圏内外、水中、地下での爆発を伴う核実験を禁止する条約。略称はCTBT。96年9月に国連総会で採択された。まだ発効していないものの、自発的な核実験停止の流れを下支えし、国際監視制度の整備も進むなど、条約の存在自体が一定の役割を果たしてきた。発効には、核兵器の開発能力のある44カ国すべての批准という厳しい条件があり、残り8カ国の批准が必要となっている。

   (聖教新聞 2014-01-27)