「金銭に執着していた自身の迷妄を猛省」

3年後、夫が残した財産とあわせて、1500万円を貯蓄した。だが、多忙な毎日の中で御本尊に向かうことがおろそかになっていた。
“お金さえあれば幸福になれる”。いつしか、そう信じるようになっていた。

(中略)

「お金に目がくらむと、正常な気持ちまで狂ってしまうんですね」

(中略)

先輩は厳しくも温かく励ましてくれた。
「お金は戻らない。でも信心があるじゃないの。腹を決めて、乗り越えなさい」
その日から真剣に題目を唱え始めた。「宿命転換をさせてください!」と御本尊にひたぶるに祈った。
金銭に執着していた自身の迷妄を猛省した。ある日、すっと心が軽くなった。
「失ったお金への執着心が消えたんですね。その時、必ずやり直せると確信できたんです」
石井さんに笑顔が戻った。

しばらくすると、大きな転機が訪れた。
隣に引っ越してきた同業者から、人手が足りないと相談を受け、手伝いに行った。
男ばかりの職場にあって、誠実一路の石井さんの仕事ぶりは目を引いた。その姿を工事現場の責任者がじっと見ていた。「今後、うちで働いてみないか」。大手建設会社の社外工として働く道が開け、収入が安定した。
その後、塗装業を継いだ3人の息子たちがたくましく成長した姿を見届け、石井さんは25年間の現場仕事を引退する。
3階建ての自宅を新築、次男と三男にも家をもたせ、悠々自適の人生を歩む石井さんだが、「一番の功徳は、あの苦難の中で負けない心を築けたこと」と振り返る。
苦労があったから、信心ができた。信心をしたから、強くなれた。
「だから……」と石井さんは言う。
「苦労と信心こそが、私の人生の最高の宝物なんです!」
満面の笑顔が輝く。


(聖教新聞 2010-03-08 5面)