戦乱と分断に苦しみ抜いた20世紀 21世紀に平和と共生の橋を

2012年11月15日(木)更新:3
【名誉会長のメッセージ 第7回池田思想国際学術シンポジウムから(上) 教育で創造性を開花】
《「戦乱」と「分断」に苦しみ抜いた20世紀 21世紀に平和と共生の橋を 価値を後継に伝え豊かに分かち合え―デューイ》
 一、広々と世界に開かれた貴・上海師範大学は、今回のシンポジウムのテーマ「多元文化の融合下における現代教育」を論じ合うのに、まことにふさわしい舞台であります。
 ここでは私なりに、このテーマに関し、
 第一に、青年の創造性を薫発
 第二に、生命尊厳の連帯を拡大
 第三に、永遠友好の金の橋を継承
 ――という三つの視点から、所感を申し述べさせていただきます。

〈他の文化を尊重 心を開いて学ぶ〉
 第一に、多元文化の融合を「青年の創造性」を薫発する力にしていくという点であります。
 貴大学のキャンパスに像が立つ大教育者・陶行知(とうこうち)先生は、“世界的であれ”と促されつつ、展望されておりました。
 「あらゆるところが生活の場であり、われわれが自分自身を教育する場である。有意義な生活をおくろうがため、われわれの生活力は必ず、学校の門を、地域の門を、そして国境の門をうちひらくであろう」(斎藤秋男著『陶行知生活教育理論の形成』明治図書)と。
 含蓄の深い洞察であります。
 「生きること」は、即「学ぶこと」であり、「生活の現場」を、即「成長の道場」としていくなかに、人間教育の芸術があるといっても、決して過言ではないでありましょう。
 特に、青年が自らの可能性を開花させていく上では、自らと異なるものと出あい、そこから積極果敢に学びとっていくことが、絶対に不可欠であります。
 多元文化との出あいが日常の中にも浸透してきた現代にあって、それを、いかにして若き生命の創造力の薫発へと聡明に連動させていくか。ここに、教育の一つの挑戦があるといえましょう。
 その意味において、青年が世界の第一級の文化にふれる機会をつくることが、極めて重要であると、私は思っております。
 一、日中国交正常化40周年の本年、私どもの民主音楽協会が招聘した「陝西(せんせい)省歌舞伎劇院」の公演は、日本全国39都市で大好評を博しました。「長安の月」と題された唐代楽舞詩(とうだいがくぶし)は、19歳で日本から中国に渡った遣唐留学生・阿倍仲磨呂が、長安の都で芸術文化を学んでいく青春を謳い上げております。
 唐の大詩人・王維(おうい)は、阿倍仲麿呂と国を超えた友情を結びました。胸襟を開いた魂と魂、文化と文化の交流によって、偉大な創造性が花開いていくことを、古(いにしえ)の先人たちは示してくれております。
 また昨年から本年にかけて、東京富士美術館の企画による「北京・故宮博物院展」は、日本全国で100万人を超す人々が鑑賞いたしました。
 あの東日本大震災の後、海外からの多くの展覧会が中止されるなか、故宮博物院の先生方は、苦難に直面する日本の人々の励みになればと、展覧会を実現してくださったのです。その真心が、どれほどありがたかったか、計り知れません。
 一、故宮博物院の創設に尽力された、上海ゆかりの蔡元培(さいげんばい)先生は語られました。
 「純粋な美育は、私達が感情を陶冶(とうや)し、高尚で純潔な習慣を身につけ、自分と他人は別だという観念、己を利して人を損なう観念を徐々になくす手助けとなります。美は普遍的であり、自他を区別する観念が入り込む余地はありません」(長尾十三二監修、石川啓二・大塚豊著訳『中国の近代化と教育』明治図書)と。
 世界の多彩な良質の文化を学ぶことは、他者に共感を広げ、自分の境涯を高く大きくすることです。生命の偉大な創造性に目を開くことです。他の文化に心を閉ざして孤立してしまえば、自らの力も伸ばせません。
 多元文化の啓発を受けゆく現代の青年たちが、「従籃而青」という貴国の人間教育の原理のごとく、いやまして創造力を発揮してくれるであろうことを、私は信じてやまないのであります。

〈教育で平和の種子を植える〉
 一、第二に確認し合いたいことは、多元文化の融合を通して、「生命尊厳」の連帯を拡大するという点であります。
 私は、中国教育学会の指導者であられる顧明遠(こめいえん)会長と、3年にわたる対話を重ね、共に対談集『平和の架け橋――人間教育を語る』を発刊いたしました。
 顧会長は、国際会議の席上、21世紀に入ってから人類が遭遇している危機は、いわゆる「文明の衝突」の理論では、その原因を明らかにはできず、ましてや危機を回避することはできないと鋭く指摘しながら、論じられております。
 「人類は、文化は多元的であり、相互に受容し合い、相互に意志疎通を図り、相互に理解し合うものであってこそ、共存できることを認識しなければなりません」と。
 そして、「教育はコミュニケーションと理解の絶好の方途であり、平和の種子なのです」と結論されておりました。
 私も、全面的に賛同いたします。
 教育は、人間の生命という最も普遍的な次元に光を当てております。ゆえに、そこには多元的な文化を包括して、それぞれの多様性を尊重しながら、青年の成長と連帯のために生かしていける地平がおのずから開かれているのであります。
 それは、いかなる差異も超えた「生命の尊厳」という根源の大地であります。

人間性こそ第一の宝 生命尊厳の連帯で地球的問題群に挑め 青年は人類の文化の原動力―郭沫若
 一、貴国で漢訳された大乗仏典の精髄「法華経」の見宝塔品では、地球規模の、巨大にして、金・銀・瑠璃・真珠などの七宝で荘厳された宝塔が出現します。それは、何を表象しているか。
 貴国そして日本の仏法探求の洞察によれば、この宝塔とは、無上の生命の尊厳を表し、さらに宝塔を彩る七宝とは、人間完成のために必要な七つの要素「聞(もん)」「信(しん)」「戒(かい)」「定(じょう)」「進(しん)」「捨(しゃ)」「慚(ざん)」を表していると説いております。
 敷衍(ふえん)して申し上げるならば――
 「聞」は、正しい真理を聞いていく求道心。他者の言説に耳を傾けること。
 「信」は、生命の尊厳を信じ、人間への信頼を決して手放さないこと。
 「戒」は、自分を律すること。倫理性を重んずること。
 「定」は、心を定め、何ものにも粉動されないこと。
 「進」は、たゆみなき精進、努力。
 「捨」は、煩悩に執着しないこと。偏見や差別にとらわれないこと。
 「慚」は、謙虚に自身を見つめ、反省し、向上を続けること――であります。
 ここには、それぞれの文化が、多彩な表現で強調している「人間としての振る舞い」が端的に集約されているといってもよいでありましょう。人間性こそ、この世の第一の宝であるという価値観であります。
 私には、深い出会いを結ばせていただいた、人民の大指導者・周恩来総理と、人民の母・トウ穎超先生の人間性に満ち溢れた尊容が彷彿として甦ってくるのであります。
 いずれにしても人類は、「生命の尊厳」を根底として、多様な学識も科学技術も、一切を自他共の幸福、社会の発展、世界の平和のために生かし合いながら、山積する地球的問題群に力を合わせて挑んでいくべき段階に入っているといってよいでありましょう。

〈先人の志を継ぎ青年の交流を〉
 一、第三に、多元文化の融合によって、「永遠友好の金の橋」を継承していきたいということであります。
 上海で人生の総仕上げをなされた文豪・魯迅先生が、前世紀の初頭、日本の仙台医学専門学校(現・東北大学医学部)に留学し、恩師・藤野先生と心温まる交流をされた歴史を、今この時に、改めて想起するのは、私一人ではないでしょう。
 その同時代、魯迅先生も学んだ日本の弘文(こうぶん)学院で教壇に立った創価教育の創始者牧口常三郎先生と、貴国の留学生たちとの心通う交流も胸に迫ります。
 当時、浙江(せっこう)省からの留学生が発刊していた月刊誌「浙江潮(せっこうちょう)」には、2号続けて魯迅先生の小説・翻訳とともに、牧口先生の『人生地理学』の抄訳(しょうやく)を掲載していたのであります。
 誠に不思議な縁(えにし)であります。
 魯迅先生は、激動の時代、「子どもを救え」(竹内好訳『魯迅選集第1巻』岩波書店)と叫ばれ、文学と教育に奔走し、大中国の精神革命に全身全霊を捧げられました。
 牧口先生は、日本が軍国主義へと傾斜していく時代、“子どもを幸福にするための教育を”と訴えて、やがては軍部権力の弾圧によって獄死しました。
 この偉大な先人たちの志を受け継ぐ思いで、私は、これまで日本と中国の青年の交流の道を開いてまいりました。

〈未来のために〉
 一、今回のシンポジウムにはらアメリカの友人たちも出席してくれております。
 かつて、革命前夜の中国の各地で、200回を超える講演を行い、青年たちと創造的なコミュニケーションを重ねた、教育者デューイ博士の言葉を、私は皆様方と深く共有したいのであります。
 「私たちの責任は、受け継いだ遺産としての価値を守り、伝え、改善し、大きくすることである。そして、後に続く人たちが、私たちが受け継いだ時よりも、さらに確かなかたちで、その価値を受け継ぎ、さらに多くの人びとの間で、豊かに分かち合えるようにすることである」
 「戦乱」と「分断」に苦しみ抜いた20世紀に生を受けた一人として、私は、21世紀を担う青年たちに、「平和」と「共生」の金の橋を断じて託していきたいと決意し、戦い続けてまいりました。
 一、貴・上海師範大学の題字を認められた文豪・郭沫若先生は、日本で「青年は人類の文化を促す原動力である」(劉徳有著、村山孚訳『郭沫若・日本の旅』サイマル出版会)と述べられました。
 日本と中国、そして世界の青年たちが力を合わせて、新たな人類の平和の文化を創造しゆく未来のために、皆様方とご一緒に、命の限り、行動を貫いていくことをお誓いし、私のメッセージとさせていただきます(大拍手)。
   (聖教新聞 2012-11-08)