池田氏の書籍は内面の問い掛けを促し「地球市民」に至る道を示す

2013年1月26日(土)更新:3
【海外出発1400点に寄せて ドイツ・ライプチヒ大学 バーバラ・ドリンク教授】
 1400点に及ぶ外国語書籍の出版、本当におめでとうございます。
 昨年、ドイツでは海外大学講演集のドイツ語版『新たな人間主義――21世紀への仏教者による考察』が発刊されました。同書は、WBG(学術出版協会)から出版された良心的な作品の一つといえるでしょう。一目見ただけで、広範な課題が網羅されていることが分かります。
 1974年から96年にわたって池田氏は、ヨーロッパ、北中南米、アジアの著名な大学を訪問され、教育、文化、宗教、国際的な平和政策を軸に、私たちが直面するグローバル時代の多様な問題群をめぐって講演されました。
 ここで提起されたテーマは今も人類が抱える問題の本質であり、何としても乗り越えなければならないものです。そうでなければ、平和な生活と人類の繁栄はなく、世界は危険と隣り合わせであり続けるでしょう。
 平和と繁栄を実現する主体者は、政治家だけではない。世界の民衆です。数言語を使いこなす、旅行慣れした「マネジャー型」の人だけではありません。特別な力はなくとも人間への共感にあふれ、全人類のために思索し、行動する責任感を持った民衆こそ、主役なのです。
 池田氏は、「地球市民」という言葉を用います。
 つまり――第一に、生命の相関性を深く認識しゆく「智慧の人」。
 第二に、人種や民族や文化の“差異”を恐れたり、拒否するのではなく、尊重し、理解し、成長の糧としゆく「勇気の人」。
 第三に、身近に限らず、遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく「慈悲の人」です(「『地球市民』教育への一考察」)。
 私たちは対等な“対話”によって、責任感と賢明さを備えた「地球市民」となっていかねばなりません。権力を握った人間が牛耳る独裁の時代は、終わりにしなくてはならないのです。仏教があらゆる形態の権力を嫌い、争いの解決手段として対話、討論、双方向のコミュニケーションを選ぶよう訴えているように。
 池田氏は語っています。
 「人間への差別意識、差異へのこだわりを克服することこそ、平和と普遍的人権の創出への第一義であり、開かれた対話を可能ならしむる黄金律なのであります」(「21世紀文明と大乗仏教」)
 仏教が説く対話の精神を実際の行動に移すには、人々の発想の変革が不可欠でしょう。全ての人間の自己変革によってのみ、世界を自己中心の闇、絶望的な破壊から取り戻すことができるのです。
 「21世紀文明の夜明けを――ファウストの苦悩を超えて」という講演で、池田氏は自己変革を遂げるための方途として大きく三つのテーマに注目しています。
 これは、日々の生活で目にする破壊――度を超えた消費、社会的な孤独、学生の熱狂的な言動、人種間の攻撃的な態度――に抵抗するという文脈において非常に示唆的です。
 第一は、自発的な自己抑止(規律)と洗練された自信に裏打ちされた「自律」。
 第二に、人間は相互に支え合っており、関係性の中で生活しているという「共生」。
 第三は、人格の形成と訓練、よき教育によってのみ達せられる自己の「陶冶(とうや)」。
 以上3点は、同書に収録された講演からも読み取ることができます。
 この書は、一度読んだだけで、その真価が分かるものではありません。
 最近の消費者向けの啓発本や人当たりのよい哲学書などとは、全く違う。全ての講演に哲学的な問い掛けと議論が濃縮されており、挑戦には相当の時間を要します。
 読者は、人を分断するだけで結びつけることのない“熱狂的な競争心”が、自分にもあるという事実と向き合わされるでしょう。
 その意味において、この本は非常に手応えのある新しい、少し難解な書であるといえるでしょう。すなわち、人々に「地球市民」たることを教える素晴らしい書なのです。
   (聖教新聞 2013-01-23)