知への探求は、限りない道程

2013年3月24日(日)更新:5
【名字の言】
 文学に「再話(さいわ)」という形態がある。民話や名作文学などを、子ども向けに分かりやすく書き直すこと。「耳なし芳一」や「雪女」などは、ギリシャ出身の小泉八雲による再話で有名だ▼昔ばなし研究所(小澤俊夫所長)によれば、再話とは「採集されたなまの昔話を、昔話の語りの法則に厳密に沿う形に手直しし、再編集して文章化する作業」。ロシアで語り継がれた「おおきなかぶ」には、さまざまな再話がある。巨大なカブを引き抜く時の描写が特徴的で、邦訳では内田莉莎子の「うんとこしょ どっこいしょ」の名訳が定着している▼北欧神話を再話したイギリスの詩人、K・クロスリイ―ホランドの著書が、日本語に全訳され30周年になる。新版『北欧神話物語』(山室静米原まり子訳、青土社)として28刷を重ね、長く愛読されてきた▼同書にこうある。「どれだけ多くわれわれが知ろうと、われわれの知りえないものが遙かに多いのだ。われわれはむしろ、闇をぬけてゆくのに蛍を案内にしている探求者に似ている」。知への探求は、限りない道程。子どもたちに、その一歩一歩の素晴らしさを知ってほしいと思う▼心を砕き、言葉を選んで、大人が語る物語は、長い人生の道しるべとなるに違いない。(杏)
   (聖教新聞 2013-03-24)