声を聞いて心を知る

2013年5月29日(水)更新:6
【名字の言】
 贈り物に添えられた「わざと」の3文字を見て、一瞬、戸惑った。「心ばかりの」を意味する埼玉・秩父地方の方言で、年配の方は今もよく口にするという。地方で育まれた言葉は、実に豊潤である▼世界的な口承文芸学者の小澤俊夫氏は、「方言」ではなく、「土地言葉」という言い方を大事にし、その地域の言葉で語られる昔話の再構築に尽力。とともに、発音や抑揚など、土地言葉を活字に残す難しさを痛感している▼原発事故の影響に苦しむ福島・浪江町。小澤氏は、「なみえ」の「え」は、よく聞くと「い」と「え」の中間の音で、活字では表せないと指摘する。現在の50音図にはない、共通語と異なる母音の発音が各地に息づいているのだ▼都会に出て言葉の問題に悩む青年が、先輩の一言に奮起した。「郷土の言葉は君の財産だ。バイリンガル(二つ以上の言語を話す人)の気概で自信をもっていこう」との激励だった▼作家の山下景子氏は、「言葉とは、心の入れ物」(『花の日本語』幻冬舎)と語る。いにしえの人々の心がこもった土地言葉。その豊かな情感を、日々の対話の中でかみしめながら、地域の人々と友情を深めていきたい。御書には「声を聞いて心を知る」(469ページ)と仰せである。(杏)
   (聖教新聞 2013-05-26)