日常を見直す機会も、ぜひ持ちたい

2013年8月16日(金)更新:8
【名字の言】
 福島県沿岸の「浜通り」の町を訪れた。昨年、警戒区域の指定が解除され、立ち入りができるようになった海辺の町だ。解除といっても、短時間の帰宅が認められただけで、住むことはできない。電気も水道も来ていない。不明者捜索も十分とはいえない▼駅の駐輪場に、たくさんの自転車が止まっていた。通学する子どもたちのものが大半。ツタが絡み、茂っている。あの日、ここに自転車を止めた子どもたちは今、どこで、どんな毎日を送っているのだろう▼「ダーク・ツーリズム」という考え方がある。最近、本格的に提唱され始めたので、ふさわしい日本語訳はまだない。直訳だと「ダーク」は「暗い」、「ツーリズム」は「観光」。戦争や災害など、人々が苦難を受けた土地を訪れようという試みだ。修学旅行などで、広島、長崎や沖縄を訪れ、語り部の話に耳を傾けるような形では、日本でも以前から行われてきた▼「暗い」と「観光」では、正反対のイメージを受けるが、「悲しみを忘れず継承する」「自分の生き方を問い直し、人生観が深まる」など、大きな意義が指摘されている▼本格的な夏だ。日常から離れ、気分転換の楽しい旅行も大切。とともに、日常を見直す機会も、ぜひ持ちたい。(哉)
   (聖教新聞 2013-08-07)