随筆 起稿二十周年の夏

2013年8月23日(金)更新:6
【随筆 我らの勝利の大道 起稿二十周年の夏】
《「新・人間革命」と歩む広布の人生――
「言論の力」で凱歌の朝を》
 時来たる
  晴れて勝ち抜き
   いざや舞え
  人間革命
   黄金の絵巻を

 早いもので、小説『新・人間革命』の執筆を開始してより二十周年を迎えた。
 ドイツの大文豪ゲーテは厳然と記している。
 「口で語ることは現在に、つまりそれぞれの瞬間に捧げられなければならないが、筆を執って書くことは遠い未来に、後につづく時代に捧げたいものだ」
 私も、ライフワークとも言うべき小説『新・人間革命』を、広宣流布の「遠い未来」に、そしてまた、「後につづく」創価の青年たちの新時代に捧げゆく思いで綴ってきた。
 お陰さまで、連載は五千百六十二回を数え、二十六巻分まで終了した。
 尊き同志の皆様方の題目に包まれ、私はますます元気で、この“師弟勝利の物語”を書き進めることができる。有り難い限りである。

〈平和の誓いを胸に〉
 一九九三年(平成五年)の八月六日――。
 『新・人間革命』の最初の原稿を書き始めた、この日、私は、インドのガンジー記念館館長であられたラダクリシュナン博士と、長野研修道場で、再会を果たした。
 会見に先立ち、博士は、“「魂の力」は原子爆弾よりも強い”というガンジーの信念を通し、私どもに深い共感と賞讃を送ってくださっていた。
 ――創価平和運動は、「誰もがもつ『魂の力』を引き出し、平和を生み出していく」と。
 八月六日、さらに八月九日は、広島と長崎に原子爆弾が投下された日である。
 恩師・戸田城聖先生は、逝去の七カ月前に発表された「原水爆禁止宣言」で、核兵器の本質を、人類の生存の権利を奪い去る「サタン(悪魔)」であり、絶対悪なりと断じ、地上からの廃絶を青年に託された。
 私は、この師の遺訓を実現しゆく誓いも新たに、『新・人間革命』の冒頭の一節を綴ったのである。
 「平和ほど、尊きものはない。
 平和ほど、幸福なものはない。
 平和こそ、人類の進むべき、根本の第一歩であらねばならない」
 光栄にも、この言葉を刻んだ碑が、起点の長野をはじめ、北海道の厚田、米国のハワイ、グアム、モンゴルのドルノド県チョイバルサン市等に建立されている。
 厚田は恩師の故郷、ハワイは世界平和旅の第一歩の地、そしてグアムはSGI(創価学会インタナショナル)の発足地である。
 またモンゴルのドルノド県は、七十四年前、日本軍とソ連軍が衝突した「ノモンハン事件(ハルハ河戦争)」の戦場となった地だ。

《「戦争の悲劇」から「平和の創造」へ――。我らは世界の友と、この「根本の第一歩」を断固と踏み出す。》
 今年も、広島、長崎、沖縄を中心に、わが後継の青年部が平和への対話を堂々と展開してくれている。
 核兵器よりも強い「魂の力」を発揮し、不戦の連帯を広げゆく青年の挑戦ほど、頼もしいものはない。
 二十年前のラダクリシュナン博士との語らいでは、インドの詩聖タゴールの長野訪問も話題となった。
 一九一六年(大正五年)の八月、軽井沢を訪れたタゴールは、女子学生に講演を行い、こう語った。
 「自分は無限のなかに生れていることを覚り、この地上の特定の場所に属するばかりでなく、世界全体に属していることを覚らなければならない」と。
 我らは、永遠と無限の宇宙にあって、選んで地球に生まれ、地涌の菩薩として民衆の幸福と世界の平和のため、悩める友を救うために戦っていくのだ。
 若き福智の生命を輝かせ、使命の舞台に乱舞する創価の女子学生部も、どれほど尊い存在か。
 ここ長野は、戸田先生と私が、永遠に忘れ得ぬ師弟の思い出を刻んだ天地だ。
 わが長野の友は、「創価信濃大学校」と銘打ち、小説『新・人間革命』を教材として、人材を育み続けてこられた。新たに信心に目覚めた青年部員や新入会者、会友の方々が、仏法の生命尊厳の大哲学を学び、誇り高き創価の民衆運動の軌跡を探究する。
 そして、その一人ひとりを“断じて人材にしてみせる”と、陰で徹して支え、励まし抜いてくれる壮年・婦人部の先輩がいる。
 この民衆の真心で築かれた人間学の総合大学こそが、創価学会なのである。
 このほど、屈指の歴史と伝統を誇る長野県書店商業組合の皆様方より賜った活字文化振興への感謝状も、私は、宿縁深き長野、そして信越の同志と分かち合わせていただきたい。

〈生命を込めた文字〉
 日蓮大聖人は、二度の流罪と無数の迫害の嵐が吹き荒れる御生涯にあって、膨大な御書を認められた。
 『日蓮大聖人御書全集』に収録されている御抄は、四百編を遥かに超える。
 大聖人は仰せである。
 「今の法華経の文字は皆生身の仏なり我等は肉眼なれば文字と見るなり」(御書一〇五〇ページ)と。
 法華経の文字、そして、御書の文字を通して、私たちは、御本仏の大生命に触れ、平和と安寧への熱願に包まれるのである。
 御書には、無名の庶民の健気な苦闘と、そして「冬は必ず春となる」という凱旋の姿が、なんと気高く留められていることか!
 それは、どの歴史書にも綴られることのなかった、民衆の尊貴な生命の黄金の勝利を、万年まで宣揚してくださる、人類史に輝く大聖業といってよい。
 この大聖人の言論闘争に直結しているのが、わが聖教新聞である。
 毎朝配達してくださる無冠の友の皆様、拡大に尽力してくださる新聞長をはじめ、多くの関係者に心から御礼を申し上げたい。
     ◇
 第二総東京の「コスモス平和大学校」は、婦人部と女子部が一体となって、小説『新・人間革命』を読み合いながら、勇んで模範の拡大に走っておられる。
 二〇〇二年(平成十四年)一月の開校以来、八万四千人に及ぶ方々が学ばれた。そのうち、実に一万一千人もの方々が、会友と地域の友人と伺った。
 この平和大学校は、小単位で学び合うのが特徴だ。互いの顔が見える集いを重ねて心の絆が強まり、「私も成長したい」「平和に少しでも貢献したい」と、進んで仏法を求める友も少なくないという。卒業生からは、組織の第一線のリーダーも多く誕生している。
 昨年末、聖教新聞の「声の欄」に、コスモス平和大学校に学ばれた母と娘の崇高な体験が掲載されていた。
 ――娘さんは、前年、進行性のがんが見つかった。それが大学校に入校したきっかけであった。
 家族一丸となって宿命転換に挑み、娘さんは一歩も退くまいと、大学校の皆と御書を拝し、『新・人間革命』を読み、学会歌を歌いながら、広宣流布の活動に取り組んでいかれた。そして病魔と闘い抜き、更賜寿命の実証を示されながら、年を越して桜の咲く頃、安らかに霊山へと向かわれた。
 「人生の輝きの全てが凝縮された、誇らかな旅立ちでした」と述懐されたお母様は、“娘の分まで”とバトンを受け継ぐ決意で大学校に挑戦された――。
 母娘の姿は、多くの友に勇気の光を送っている。生命は三世永遠である。
 宿命を使命に変えゆく偉大な「人間革命」の劇は、無量の福徳に満ちて、常楽我浄の光彩を放っていくことは絶対に間違いない。

《新しい発想と決意と行動で さあ出発だ!》
〈自身の革命劇を!〉
 大聖人は、死別した夫の忘れ形見であった末子を失う悲嘆の中で、純一無二の信心を貫く南条時光の母を励まされ、法華経の絶対の功力を教えられた。
 「此の経を持つ人は百人は百人ながら・千人は千人ながら・一人もかけず仏に成る」(同一五八〇ページ)と。
 妙法に縁すれば、誰人であれ必ず仏になれる。自身の生命を最大に光り輝かせながら、自分らしく「人間革命」の勝利劇を飾っていくことができるのだ。
 『新・人間革命』の執筆二十年は、わが愛する友の一人ひとりの「人間革命」の戦いの歳月でもあった。
 現代社会は、多くの若人が自信を持てずに、悩み苦しんでいる時代である。
 その若き生命から究極の自信を引き出し、最大に励ましながら、「人間革命」の誇りと喜びを贈っていくのが、わが青年学会だ。
 一人ひとりが、全世界の平和と民衆の幸福を成し遂げゆく「主体者」であり、「責任者」である。
 さあ、共に出発しよう!

 我らこそ、人間革命の先駆者なり!
 我らこそ、世界平和の先導者なり!
 我らこそ、未来創造の挑戦者なり!
 中国のペンの闘士・魯迅は言った。
 「今なにが必要かを問わずともよい、自分になにができるかを問うことです」
 私は、愛するわが弟子の永遠勝利のために、今日も「言論の戦い」を続ける。
 人生は常に真剣勝負だ。皆が一つでも、二つでも、「新しい発想」で、「新しい決意」で、「新しい行動」で道を開いていくことだ。
 そうすれば、創価学会はますます盤石である。広宣流布という平和の大道は、いよいよ大きく広がる。
 そこに、「一人ひとりの人間革命」即「人類の宿命転換」という凱歌の朝が必ず開かれゆくに違いない。

 師弟して
   人間革命
      光あれ
     ◇ 
 九日、秋田・岩手などの東北北部や北海道南西部で、記録的な豪雨により大きな被害が出ました。被災地域の皆様に、心からお見舞い申し上げます。

  
 ゲーテの言葉は『ゲーテ全集13』所収「箴言省察」から、岩崎英二郎訳(潮出版社)。タゴールは『タゴールと日本』所収「瞑想」稲津紀三訳(タゴール記念会)。魯迅は『魯迅の言葉』中村愿監訳(平凡社)。

   (聖教新聞 2013-08-10)