薫風

2012年4月4日(水)更新:3
【新・人間革命 薫風 五十七】
 山本伸一は、この県幹部との懇談会でも、盛んに青年との対話に努めた。
 彼は、テーブルの隅に座っていた、県男子部長の飯坂貞吉に声をかけた。そして、飯坂から、若くして両親を亡くしていることや、経済的な事情から大学進学を断念せざるを得なかったことなどを聞くと、伸一は言った。
 「君は努力で勝利した人だね。学会は、実力主義であり、信心の世界ですから、学歴は関係ありません。しかし、学力は必要です。忙しくとも読書に励み、あらゆることを勉強し抜いていくんです。
 社会の一流の人たちが、“学会のリーダーはさすがだ”と感服するぐらい、教養をつけて、智慧を発揮していかなければならない。
 大学に行けず、苦労して、努力で成功を収めてきた人は立派です。しかし、高学歴者を否定的に見たり、自分を過信して傲慢になったり、虚勢を張ったりしてしまいがちな面もある。そうなると、人間としての成長が止まり、場合によっては、道を踏み外してしまうこともある。初心を忘れず、自分をわきまえ、謙虚に、生涯、『求道』『向上』の息吹を燃やし続けていくことです」
 シェークスピアは、「慢心は人間の最大の敵なのだ」(※注)との警句を発している。
 また、飯坂の隣にいた県青年部長で副県長の武原成次には、こう語った。
 「県長を、本当に支えていこうと思うならば、自分が県長の自覚で、一切の責任、苦労を担っていくんです。それができてこそ、本当の指導者に育つ。私は、青年部の室長の時も、総務の時も、そうしてきました。だから、三十二歳の若さで会長になっても、悠々と全学会の指揮を執ることができたんです。
 今こそ、自分の真価が問われていると思って、陰の力に徹して、黙々と働くんです」
 陰の労苦が、人間を鍛え、力を培う。
 伸一は、皆に大成してほしかった。光り輝く、宝石のような人材に育ってほしかった。最高の人生を生き抜いてほしかった。それゆえに、歯に衣着せぬ指導をしたのである。
※引用文献  注 シェイクスピア著『マクベス』野上豊一郎訳、岩波書店
   (聖教新聞 2012-04-04)