木が『生きたい』と力の限り出してきた『命の芽』

2012年6月26日(火)更新:4
【名字の言】
 著名な「樹木医」の仕事の成果を目の当たりにした。ほとんど枯れかけていたソメイヨシノの並木が、みごとに再生しているのだ
 ソメイヨシノは種子を残さず、接ぎ木などで増える。いわば、全て同じ遺伝子を持った“クローン”ともいえる。だから、環境の変化や病気で、一帯のソメイヨシノが同時に弱ることもある
 その樹木医が注目するのは「不定根」。幹や枝など、本来の根と違う部分から出た細い根のことを指す。しかもそれは、腐った部分、傷ができた部分から出ることが多い。これを、人工の管で大切に覆い、大地まで誘導する。「不定根」が大地に根付けば、木全体が蘇生する。「『根』だけど、木が『生きたい』と力の限り出してきた『命の芽』」と樹木医は言う
 石巻の大学教員が語っていた。「何としても、被災した学生を守りたい。つらい体験をした彼・彼女たちだからこそ、大人になったら、どんな人にも温かい社会を創ってくれるに違いない」
 思わぬところから出る「根」。傷ついたところから出る「命の芽」。人間にも、当てはまる。今はつらく、困難の中にあるかもしれない。しかし、励まされ大切に守り支えられた時、その人の一歩一歩の前進は、周囲を大きく変える力を秘めている。
      (聖教新聞 2012-06-26)