難来るを以て安楽と意得可きなり

2012年9月7日(金)更新:6
【名字の言】
 友に会いに行こうと、夏の東北を列車で走った。視界に田んぼが広がり、彼方には、山々の稜線が折り重なるように、延々と連なる。車両の窓枠が額縁となったような“一幅の名画”だった
 絶景を見つめながら思った。目まぐるしい変化の日々にあっても、心に大山のような指標があれば、泰然と生きられる。目指す指標があれば、今の自身の立ち位置が分かる。心にそびえ立つ山を登攀しようと苦闘する中に、充実の人生が築かれる――と
 名峰といえば、富士に並ぶ山はない。文豪・吉川英治の小説『宮本武蔵』の一節が頭に浮かぶ。「あれになろう、これに成ろうと焦心(あせ)るより、富士のように、黙って、自分を動かないものに作りあげろ」(講談社)。池田名誉会長が、しばしば言及する有名な一節だ
 富士は秀麗な姿をたたえつつも、山頂では烈風、時には豪雪が吹き荒れ、地下には赤々としたマグマがたぎる。不動の自身をつくるには、試練の嵐に立ち向かう勇気、ふつふつと湧き上がる情熱が欠かせない
 御聖訓に「難来るを以て安楽と意得可きなり」(御書750ページ)と。真の安穏は、安逸の中にはなく、苦難との大闘争によって導かれる。心に富士を仰ぎつつ、激戦を勝ちゆく堂々たる人生を、と誓う。
   (聖教新聞 2012-09-07)