人にして人を毛嫌いするなかれ

2012年10月13日(土)更新:1
【名字の言】
 「わが国では、どうして『あのー』が活躍するのだろう」。この疑問を抱いた精神科医中井久夫氏は、『私の日本語雑記』(岩波書店)で、人に道を尋ねる際の言葉「あのー……ちょっとよろしいでしょうか」を紹介している。そして、知らない人に話し掛けるのは失礼かもしれないが、あえて話し掛けるという躊躇と勇気を指摘。また、断られても、互いに傷つかない配慮まで考察している▼ある壮年部員が上司と懇談した。「あのー」と切り出したかどうかは不明だが、創価教育の父・牧口常三郎初代会長が、東京の白金小学校の校長を務めたことが話題になった。すると、上司が「私は、その白金小学校の卒業生なんです。父もです」と▼対話して初めて分かることがある。新たな発見、深い理解に喜びが生まれる。中井氏は「日本語は対話的に進む傾向がある」とも述べている▼福沢諭吉の『学問のすゝめ』は全17編から成る。その最後に「旧友を忘れざるのみならず、兼ねてまた新友を求めざるべからず」とある。古き友を忘れず、新しき友を求めよ――と▼対話の秋、新旧の友との交流を心掛けていきたい。「天は人の上に……」の冒頭が有名な同書だが、その結語は「人にして人を毛嫌いするなかれ」である。(杏)
   (聖教新聞 2012-10-13)