誠心誠意、ベストを尽くして信念を語る姿に勝るものはない

2012年11月9日(金)更新:3
【名字の言】
 今年は、新渡戸稲造の生誕150年。国際連盟事務次長を務めた、近代日本を代表する国際人だ▼新渡戸は若いころ、演説が大の苦手だった。とにかく震えが止まらない。“聴衆はただの椅子”と思い込んでみるが、よく見れば、やはり人の顔。“聴衆は気心知れた友ばかり”と思ってみても、実際は面識もない人ばかり。“聴衆をのみ込んでやれ”と思うほど、自分がのまれる気がした――ユーモアも交え、赤裸々に述懐している(『新渡戸稲造全集』第10巻、教文館)▼その彼が吹っ切れた瞬間がある。「演説を賞(ほ)められたい、或は自分がよくいはれたいと色気があればこそ、恐れ戦(おのの)くもの」「賞めるか、誹るかそれは他人のすることで、自分のすることは只ベストをするのみだ」。こう腹を決めた時を境に、演説の達人へと飛躍した▼「世間の毀誉褒貶(=さまざまな評判)は顧みない」と小説の登場人物に語らせたのは、同じく生誕150年の森オウ外。書斎にこもることを是とせず、幅広い交際を広げたオウ外ならではの一言である▼心をつかむ対話は、策や技術からは生まれない。誠心誠意、ベストを尽くして信念を語る姿に、勝るものはない。思い切って動き、誠実に語り、実り豊かな友好・対話の秋を!(鉄)
   (聖教新聞 2012-11-04)