(2)持続可能な未来のために 世界の軍事費の半減達成を!

2013年2月3日(日)更新:4
〈核保有国の間でも広がる認識の変化〉
 実際、今や保有国の間でも、核兵器の有用性に対する認識の変化がみられるようになってきています。
 昨年3月、アメリカのバラク・オバマ大統領は韓国で行った講演で「我が政権の核態勢は、冷戦時代から受け継いだ重厚長大核兵器体系では、核テロを含め今日の脅威に対応できないとの認識にたつ」(「核兵器・核実験モニター」第398号、ピースデポ)と述べました。
 また昨年5月のNATOサミットで採択された文書でも、「核兵器の使用が考慮されねばならないような状況は極めて考えにくい」(同、第401―2号)との見解が示されています。
 いずれも、「核兵器が存在する限り」との前提に立って抑止政策を堅持する姿勢は崩していないものの、核兵器を安全保障の中心に据え続けねばならない必然性が現実的には低下していることを示唆したものとして注目されます。
 このほか、核兵器に対する問題提起は、他の観点からも相次いでいます。
 例えば、世界的な経済危機が続く中、トライデント(潜水艦発射弾道ミサイル)による核兵器システムの更新がイギリスで財政問題に関連して争点化したように、核保有に伴う甚大な負担の是非を問う声が各国で挙がり始めています。
 世界全体で核兵器の関連予算は、年間で1050億ドルにのぼるといいます。
 その莫大な資金が各国の福祉・教育・保健予算に使われ、他国の開発を支援するODA(政府開発援助)に充当されれば、どれだけ多くの人々の生命と尊厳が守られるか計り知れません。核兵器保有と維持だけでも重大な負荷を世界に与え続けているのです。
 加えて昨年4月には、核戦争が及ぼす生態系への影響についての研究結果をまとめた報告書「核の飢餓」が発表されました。
 IPPNW(核戦争防止国際医師会議)とPSR(社会的責任を求める医師の会)が作成したもので、比較的に小規模な核戦力が対峙する地域で核戦争が起きた場合でも、重大な気候上の変動を引き起こす可能性があり、遠く離れた場所にも影響を与える結果、大規模な飢餓が発生して10億人もの人々が苦しむことになると予測しています。


SGIの新展示が目指しているもの〉
 戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」を原点に、核兵器の禁止と廃絶を求める運動に長年取り組んできたSGI(創価学会インタナショナル)では、こうしたさまざまな観点を踏まえつつ、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共同して、「核兵器なき世界への連帯――勇気と希望の選択」と題する展示を新たに制作しました。
 昨年8月に広島で初開催したこの展示は、政治的・軍事的観点からのみ論じられ、袋小路に陥ってしまっている核兵器の問題について、非人道性に加え、人間の安全保障、環境、経済、人権、ジェンダー(社会的性差)、科学など、多様な角度から問い直しを迫る内容となっています。
 今回の展示の主眼は、それぞれの人が関心を持ち、懸念を抱いているテーマを入り口としながら、核兵器の問題を今一度、自身に深く関わる課題として考え直す機会を提供することで、「核兵器のない世界」を求める連帯の裾野を大きく広げることにあります。
 私どもが半世紀以上にわたって核兵器の問題に取り組んできたのは、核兵器の存在自体が「生命の尊厳」に対する究極の否定であり、その禁止と廃絶を実現させる中で、“国家として必要ならば、大多数の人命や地球の生態系を犠牲にすることも厭わない”との非道な思想の根を断つことにありますが、理由はそれだけにとどまりません。
 もう一つの大きな目的は、核兵器の問題というプリズムに、展示項目として先に列挙したような環境や人権といった、さまざまな観点から光を当てることで、“現代の世界で何が蔑ろにされているのか”を浮き彫りにし、世界の構造をリデザイン(再設計)すること――そして、将来の世代を含め、全ての人々が尊厳ある生を送ることができる「持続可能な地球社会」の創出にあります。


《2015年のサミットで核問題の首脳会合を開催》
〈核時代に終止符を打つ道徳的な責任〉
 そこで私は、三つの提案を行いたい。
 一つ目は、「持続可能な開発目標」の主要テーマの一つに軍縮を当て、2030年までに達成すべき目標として「世界全体の軍事費の半減(2010年の軍事費を基準とした比較)」と「核兵器の廃絶と、非人道性などに基づき国際法で禁じられた兵器の全廃」の項目を盛り込むことです。
 私は昨年6月の環境提言で、「持続可能な開発目標」の対象分野にグリーン経済や再生可能エネルギー、防災・減災などを含めることを提案しましたが、これに軍縮も加えるべきではないでしょうか。
 このうち軍事費の削減は、現在、国際平和ビューローと政策研究所の二つのNGOが中心となって呼びかけており、SGIとしても「人道的活動としての軍縮」を重視する立場から、その運動に参加していきたいと思います。
 二つ目は、核兵器の非人道性を柱としつつ、核兵器にまつわる多様な角度からの議論を活発化させながら、国際世論を幅広く喚起していくことで、核兵器禁止条約の交渉プロセスをスタートさせ、2015年を目標に条約案のとりまとめを進めることです。
 三つ目は、広島と長崎への原爆投下から70年となる2015年にG8サミット(主要国首脳会議)を開催する際に、国連や他の核保有国、非核兵器地帯の代表などが一堂に会する「『核兵器のない世界』のための拡大首脳会合」を行うことです。
 例えば、2015年のホスト国であるドイツと交代する形で、2016年の担当国である日本がホスト役を務め、広島や長崎での開催を目指す案もあるのではないかと思います。
 これまで私は、こうした首脳会合の方式として、2015年のNPT再検討会議の広島や長崎での開催を提唱してきました。
 その実現を切望するものですが、190近くの国が参加する大規模な会議であることなどの理由から、慣例通り、国連本部での開催が決まった場合には、再検討会議の数カ月後に行われるG8サミットの場で議論を引き継ぐ形で、「拡大首脳会合」を広島や長崎で行うことを検討してみてはどうかと思うのです。
 その意味で、先ほど触れた韓国での講演でオバマ大統領が述べていた次の言葉は、私の心情と深く響き合うものがあります。
 オバマ大統領は、「米国には、行動する特別な責務がある。それは道徳的な責務であると私は確信する。私は、かつて核兵器を使用した唯一の国家の大統領としてこのことを言っている」と、2009年のプラハ演説=注4=で述べた信念をあらためて表明した上で、こう続けました。
 「何にもまして、二人の娘が、自分たちが知り、愛するすべてのものが瞬時に奪い去られることがない世界で成長してゆくことを願う一人の父親として言っているのだ」(前掲「核兵器・核実験モニター」第398号)と。
 この後者の言葉、すなわち、国や立場の違いを超えて一人の人間として発した言葉に、あらゆる政治的要素や安全保障上の要請を十二分に踏まえてもなお、かき消すことのできない“本来あるべき世界の姿”への切実な思いが脈打っている気がしてなりません。
 私はここに、「国家の安全保障」と「核兵器保有」という長年にわたって固く結びつき、がんじがらめの状態が続いてきた“ゴルディオスの結び目”=注5=を解く契機があるのではないかと考えるのです。
 核時代に生きる一人の人間として思いをはせる上で、広島や長崎ほどふさわしい場所はありません。
 2008年に広島で行われたG8下院議長サミットに続いて、各国首脳による「拡大首脳会合」を実現させ、「核兵器のない世界」への潮流を決定づけるとともに、2030年に向けて世界的な軍縮の流れを巻き起こす出発点にしようではありませんか。


〈世界人権宣言の採択から65周年〉
 続く第二の課題は、人権文化の建設です。
 先ほどの「核兵器の禁止と廃絶」が国連総会で初めて採択された決議のテーマであったように、「人権」もまた国連の創設当初から目的の柱に据えられてきたテーマでした。
 国連憲章の草案における人権規定が極めて限定的だった中、1945年のサンフランシスコでの制定会議で「平和の礎石を据えるつもりならば、誠実かつ正しくその基礎をおかなければならない」(ポール・ゴードン・ローレン『国家と人種偏見』大蔵雄之助訳、TBSブリタニカ)といった意見が相次ぎ、NGOからも明確な規定を求める声があがった結果、国連憲章の第1条で国連の主要目的として人権が位置付けられただけでなく、憲章で唯一、専門の委員会の設置が明記されたのです。
 そして翌46年に人権委員会が設置されたのに続き、48年には「世界人権宣言」が採択されました。
 人権委員会の初代委員長として制定作業に携わったエレノア・ルーズベルトが「あらゆる場所のすべての人にとって国際的マグナ・カルタとなりうる」(同前)と予見した通り、「世界人権宣言」は多くの国の人権規定に影響を与え、人権に関する諸条約を成立させる理念的基盤としての役割を果たしたほか、人権のために行動する人々を鼓舞し続けてきました。
 その採択から65周年を迎える現在、「人権基準の設定」や「権利保障と救済のための制度整備」に続き、国際社会で重視されるようになってきたのが「人権文化の建設」です。
 これは、人間の尊厳を共に守る気風を社会全体で育む取り組みを通し、規範の設定や制度の整備だけでは完結しえない人権保障の強度を、一人一人が意識をもって鍛え上げていくことを目指したものです。
 まさしくそれは、私が、「生命の尊厳」に基づく文明を築くには、一人一人のかけがえのなさに目覚め、それを大切に守り抜こうとする心が社会全体に脈動しなければならないと訴えた方向性と、軌を一にする挑戦に他なりません。


 注4 プラハ演説
 2009年4月、チェコ共和国の首都プラハでアメリカのオバマ大統領が行った演説。「核兵器を持つ国として、そして唯一核兵器を使用した核保有国として、アメリカには行動する道徳的責任がある」と表明し、「核兵器のない世界」に向けての共同行動を各国に呼びかけた。核保有国のリーダーが道徳的責任に言及した発言として注目を集めた。


 注5 ゴルディオスの結び目
 紀元前333年、東方遠征の途中で古代フリギアの都を占領したアレクサンドロス大王は、「ゴルディオス王が結んだ複雑な縄を解いた者は、アジアの支配者となる」との予言を耳にし、その縄を剣で両断した。この故事に由来し、転じて「至難の問題」を意味する。
   (聖教新聞 2013-01-27)