人生は「永遠に創造」「永遠に出発」

2013年5月11日(土)更新:5
【響き合う魂 SGI会長の対話録 第2回 20世紀最高峰のバイオリニスト ユーディー・メニューイン氏】
 「ようこそ!人類の音楽の皇帝!」
 「いいえ、私は音楽の召使いです」「池田会長との出会いを待ち焦がれていました」
 ユーディー・メニューイン
 20世紀最高峰のバイオリニストである氏が、池田SGI(創価学会インタナショナル)会長に会うため、東京の聖教新聞本社を訪れたのは、1992年4月5日のことである。

 氏 皆さんの真心は、この会場を飾る花々にも象徴されています。花が、夢のように美しい――。私には、あたかも話しかけるかのように花を愛でる日本人の心が伝わってきます。
 会長 花は「無言の詩」ですが、お言葉には「心」があり、「音楽」があり、「詩」があり、「哲学」があります。
 氏 本当にご親切なお言葉です。私にとって、洗練された「大人」の人物に接することは、大きな喜びです。私には今も、どこか「大人」になりきれないところがあるのです。冷静な分析よりも、直感が先走るようなところが(笑い)。
 会長 「大人」の風格と少年の純粋さと。そのバランスがとれてこそ、偉大な人間といえるのではないでしょうか。

 7歳でステージに立ち、「神童」と呼ばれた氏。
 演奏を聴いたアインシュタイン博士が、「きょう、君は証明してくれた。天上に神が存在することを」と、12歳の氏を抱きしめた事実は有名である。
 分断と差別と抑圧と殺戮と。
 圧倒されるような20世紀の“現実”を前に、人類は一つになれると信じ、氏は立ち向かった。バイオリンと指揮棒を手に取って――。
 氏は綴った。「私にとって音楽は、まさに人類共通の心との出会いの場なのである」(『ヴァイオリンを愛する友へ』岸本完司訳、音楽之友社)
 アメリカ生まれのユダヤ人だった氏は、第2次世界大戦でドイツが降伏すると、いち早くベルゲン・ベルゼン収容所を訪れ、生存者を前に演奏した。
 ナチス支配下のドイツで多くのユダヤ人を助けた名指揮者フルトヴェングラーが、“ナチ協力者”として糾弾されると、敢然と擁護の先頭に立った。そのために、アメリカ国内外から猛烈な非難や脅迫を受けた。
 アパルトヘイト(人種隔離)下の南アフリカに演奏旅行に行くと、招へい元からの圧力を振り切って、黒人の少年や労働者のためのコンサートを開いた。
 至るところで利害の“大人の世界”とぶつかりながら、氏は水晶のように美しい「少年の心」を失うことはなかった。
 「なぜユダヤ人の人々はバイオリンに長じているのでしょうか」。SGI会長が問うと、氏は答えた。
 「数々の弾圧を受けたユダヤ人にとっては、バイオリンによって表現すべき、あまりにも多くの思いがあったのです」
 ユダヤ人の運命に自身の人生を重ねていたのかもしれない。
 氏はこう言ったことがある。
 「苦しみを通り抜けてきた魂を持っていなければ、ヴァイオリンを美しく弾くことは出来ません」(『メニューインとの対話』伊藤惠以子訳、シンフォニア)
 氏は、バイオリンとは「貧しき者の楽器」であり「村人の楽器」であると信じていた。
 世界中を巡り、病院、刑務所、老人ホームなど、コンサート会場に行けない人々の元に、音楽の喜びを届けた。
 51年9月の初来日は熱狂を呼んだ。貧しく、荒廃した日本人の心に、久方ぶりの西洋音楽の真髄を届けてくれた。
 演奏会を聴いた文芸評論家の小林秀雄は綴った。「あゝ、何という音だ。私は、どんなに渇(かつ)えていたかをはっきり知った」
      ◇
 氏からは、会見の数年前から、SGI会長に会いたいとの希望が寄せられていたが、SGIとの出あいは、さらに遡る。
 そのエピソードがいかにも、繊細な感覚と、謙虚で優しい心を持った氏らしい。
 ロンドンに住む氏には、いつもマッサージを頼む、知人の女性がいた。
 「あなたのマッサージは素晴らしい。まるで指が話し掛けてくるようだ」。マッサージの秘訣を尋ねると、女性は答えた。
 「私は仏教徒なんです。マッサージをする時は、心で南無妙法蓮華経と唱えているんです」
 イギリスの婦人部員だった。
 「ナンミョウホウレンゲキョウ……素晴らしい音律だ」。以来、氏は題目を口ずさむようになり、SGI会長の著作を読破していったという。
 題目の音律は、SGI会長との会見でも話題になった。

 氏 「南無妙法蓮華経」の「NAM」という音に、強い印象を受けます。「M」とは命の源というか、「マザー(MOTHER)」の音、子どもが一番最初に覚える「マー(お母さん)、マー」という音に通じます。この「M」の音が重要な位置を占めている。
 会長 日蓮大聖人は「南無妙法蓮華経」を、「歓喜のなかの大歓喜」「歓びの曲」である、ともされました。妙法の音律は、太陽が昇るような躍動の音律です。「永遠に創造」であり、「永遠に出発」であり、「永遠に戦い」である宇宙の大生命力が、こもっているのです。

 語らいを終え、氏は芳名録に記した。「対話によって一体となる喜びを得た一夜でした」
 人と人を結び、人と宇宙を結ぶ音楽と。
 人間を信頼し、人間の可能性を引き出す仏法と。
 二つの呼吸がぴたりと合い、対話それ自体が、美しい魂の交響楽を奏でていた。
   (聖教新聞 2013-04-29)