苦労も失敗も最高の友人―ハンコック氏

2013年6月2日(日)更新:4
【記念講演 ジャズピアニスト ハービー・ハンコック氏】
《人生の師との出会いが自身の可能性を開いた》
●「講演の依頼をいただいたとき、私はうれしくて、驚きと感謝で、ひっくり返るほどでした」

●一、本日は、私が人生から導き出した結論を、いくつかご紹介したいと思います。
 SUAの創立者であり、私が人生の師匠と仰ぐ池田博士の「人間革命」という個人変革を原動力とした社会変革のビジョンは、音楽家としてだけでなく、究極的には一人の人間として、私が意思決定をする規範となってきました。
 一人一人が限りない可能性を持っていることを池田博士に学び、博士と同じ倫理観、信念、理念を実践していく中で、「どうすれば自分の夢を追う直接の結果として、他者の人生の向上に寄与できるか」を問うようになりました。
 私たちは皆、巨人たちの肩に乗っています。これは、私のジャズ音楽家としての人生から言えることです。ジャズは競争的なものではなく、協調的なものです。そして、師弟関係の共有のモデルの上に進化していくものです。私にとって、音楽的な成長の鍵は、師匠たちが積み上げ、引き継いでくれた経験から学ぶことなのです。
 一、ここで、人生に大きな影響を与えた、もう一人の師匠の話をしたいと思います。
 1963年に私をバンドに誘ってくれたマイルス・デイビスさんです。彼は熟練の音楽家として、また優れた指導者として、私の可能性を見いだし、癖や習慣を改めてくれました。腹の底から深く強烈な、偽りのない情熱を呼び起こしてくれました。彼の天賦の才は私が作ってきた音楽、そして、きょうこの日にも作り続けていく音楽に多大な影響を及ぼしています。
 本物の巨匠だけが、真実の答えにいたる道を授けることができるのです。
 自分が他人にとってどのような「師」になりたいか、考え始めるのに早すぎることはありません。そのような考えが、自分自身の他人に対する行動に影響を与え、残りの人生の確固たる基盤を形成するからです。
 私は、尊敬をもって師匠を自分の人生に迎え入れ、その結果として知恵と強さを見いだしています。

〈お金で買えない人間的価値こそ〉
 一、これから世界に出ていく皆さんは、試練を避けないでください。試練の中でこそ学び、成長し、強い確信を得ることができるからです。そして、挑戦の中で必ず他の人々をも、その行動へ後押ししてください。なぜなら、「私」のことだけではなく、「私たち」が重要であるからです。
 どうか、将来に対して先入観を持たないでください。自身に問いを発し、情報を集め、賢人の意見を聞き、そして自身の心に従ってください。苦しみ、葛藤したっていいのです。苦労は最高の友人になり得るのです。
 目的を見失わないでください。勇気は、共感は、寛容は、智慧は、そして“何のため”の重要さを認識する姿勢は、お金では買えません。これらの抽象的な資質が人生に価値を与えるのです。
 私はこれまでの人生を通し、失敗とは敵ではなく、友であるということを学びました。
 人生の困難と出あえるという意味で、一番大切な友かもしれません。そこから立ち上がるか、倒れたままでいるのか――立ち上がるほかはありません。
 失敗を、次の戦いに勝つためのきっかけにしてください。一時の戦いに負けることはあっても、人生という戦いに負けるべきではないからです。でも、この戦いとは、誰に対してなのでしょうか。
 それは、あなた自身です。本当の敵は、自身のネガティブな側面です。立ち上がることによって、自分の欠点と弱さを、良い方向に転換できます。その努力があるからこそ、より強くなることができるのです。
 一、私たちは、人生を即興で演じているようなものです。
 私がジャズバンドを通して見つけ出してきた根源的な価値をいくつか紹介したい。
 まず、自分自身に安心することです。
 少し時間を割いて、自分がどういう人間なのかをよく知り、自分の中にいる“子ども”と“大人”を受け入れて、生涯、一緒にいる自分という人間に対する自信、感謝、尊敬の気持ちを見つけ出すことです。
 二つ目に、既成のものを打破し、枠にとらわれない考え方に挑戦する勇気を持て!――ということです。
 自分で、自分が前に進む邪魔をしてはいけません。
 三つ目に、あなたが勝つためには他人が負けなければならないと考えることは誤りであり、紛れもなく危険であるということです。
 唯一の競争は自分自身の中にあるのです。
 四つ目に、違うということ、新しいこと、普通でないことは面白いということです。
 古い、いつもと同じことは面白くないのです。アイデアが出あい、ぶつかりあうときに、優秀な音楽が創造されます。
 五つ目に、不可能なことは可能にすることができると信じることです。
 あなたには、生まれながらの想像力があります。それを前進へのアイデアを広めるために使ってください。
 六つ目に、あなた自身について探究することが、想像力のために不可欠であり、自身の理解の一歩となることです。
 考えることが痛いような、考えを刺激する質問をすることによって、自分自身の励みになります。

〈新しい友を作り同窓の友と進め〉
 一、最後に、本日、皆さまと共にお祝いさせていただいたことを感謝いたします。
 卒業生の皆さま、おめでとうございました! 涙は流れるでしょうが、その粒に虹を見つけ、夢を追い求めてください。
 あなたを、人生の次の章に腕(かいな)を広げて迎えます。あなたのストーリーは続き、人生の台本は厚さを増します。SUAから旅立つにあたり、感謝を忘れず、答えとして「ノー」は使わず、かつ批判は受け入れ、敵をも大事にし、新しい友達を作り、学友とも連絡を取り続けてください。
 理由がなくても、笑顔でいることです。毎日笑い、面白くあり、ジョークを飛ばし、困難の中にもユーモアを見つけ、かつ他人を笑わないことです。
 そして、創造力、情熱、類い稀な才能を、高貴で壮大な、危険にさらされているこの世界を守るために使ってください。平和のために美を創造し、人類を前進させるあなただけのアイデアを、作り上げていってください。
   (聖教新聞 2013-05-29)