名誉会長のメッセージ 人間の生命の可能性は無限

2013年12月6日(金)更新:5
・『希望の未来へ英知の結集を』
http://d.hatena.ne.jp/yoshie-blog/20190119


【池田思想シンポジウムへの名誉会長のメッセージ】
《教育、協力が「生態文明」を開く 自然と調和し共生する哲学を世界へ》
 一、本日は人類の明日を照らしゆかれるシンポジウムの開催、誠におめでとうございます。21世紀の世界が進むべき新たな大道を切り開かれようとする試みに、私は深く強く感銘を受けております。
 どこまでも「人間」を見つめ、「社会」のために知恵を結集し、「未来」のために尽くし抜かれる知性と良識の先生方の尊いご努力に、私は最大の尊敬と感謝を捧げさせていただきたいのであります(大拍手)。
 一、中国では現在、「生態文明の建設」の理念のもと、政治、経済、社会、文化のそれぞれの分野で、環境の保全とともに、生態系の保護を重視する持続可能な発展が目指されています。なかでも、エネルギー分野において太陽光や風力発電といった「再生可能エネルギー」の積極的な導入が目指されるなか、今年6月にドイツやフランスなどの国々とともに、「エネルギーシフト国家クラブ」を発足させ、地球的規模での再生可能エネルギーの導入拡大をも進めようとされていることは、世界の大きな注目を集めています。
 この意欲的な取り組みに象徴されるように、現代社会においての人類が直面する環境問題は、国境や民族の違いを超えて英知を結集し、力を合わせて事に当たらなければ乗り越えられないことは、論をまちません。
 その意味で、貴国が取り組まれている「生態文明の建設」は、世界全体で等しく追求されるべき優先課題にほかならず、人類史を画する挑戦を確かな軌道に乗せていくために、人々の意識の大きな転換が、今ほど必要とされる時代はないでありましょう。
 そこで、この「生態文明の建設」の展望の上から、簡潔に2点の所感を申し上げさせていただきます。


〈環境問題の打開へ「勇気」を灯す〉
 第一に、「環境教育を基盤に持続可能性の追求を」ということであります。
 貴国では「生態文明の建設」の核心をなす理念として、人間と自然との相互依存性を踏まえた“良性の相互関係”の構築を掲げておられます。
 現代の国際社会で環境問題が論じられる際、「持続可能性」というキーワードがよく語られますが、私はその「持続可能性」の追求が社会全体に定着するには、制度や技術面での対応に加えて、自然とのかけがえのない関係を大切にする思想が根を深く張ることが、不可欠と考えてきました。
 この点に関し、中国教育学会の顧明遠(こめいえん)会長が、私との対談で、「中国人は、古くから人間と自然は調和し、共存しなければならないことを認識しており、それを最高の道徳基準としていました」と語っておられましたが、そうした精神遺産から豊かな智慧を汲み取り、現代の社会に幅広く展開し、「持続可能性」の追求に資する価値を力強く創造していくことは、世界全体にとってもきわめて重要な意義をもつに違いありません。
 その挑戦を進める上で大きな役割を担うのは、何といっても「教育」であります。
 かねてより私は、環境問題の打開の原動力は「教育」なりとの信念から、行動を重ねてきました。また、私が創立した創価学園創価大学などでも、さまざまな形で環境教育の推進に力を入れてまいりました。
 昨年発表した環境提言では、環境教育の在り方として、知識や技術の習得だけでなく、(1)自分が育ってきた場所を大切にする「心を受け継ぐ」ための教育(2)自分を取り巻く環境がもたらす恩恵への感謝の思いを「日々の行動に還元する」ことを促す教育(3)これから生まれてくる世代のために何を守ればよいのかを「自身の生き方の柱に据える」――三つの観点の重要性を提起しました。
 ともすれば現代の環境問題は、その規模の大きさや原因の複雑さに半ば圧倒される形で、改善に向けての意欲が失われてしまうことが、解決を難しくさせているといわれます。その難問に対し、“人間が起こした問題は、人間の手で解決できないはずがない”との希望と勇気を灯すのが「教育」にほかなりません。
 私どもが提唱し、2005年からスタートした国連の「持続可能な開発のための教育の10年」は来年で終了しますが、“人間と自然は調和し、共存しなければならない”との思想を受け継がれてきた貴国の皆さま方と共に、環境教育を基盤に据えた持続可能性の追求に取り組んでいきたいと願うものです。


《ペッチェイ博士「一人一人のもつ理解力、想像力、独創力で現状は逆転できる!」》
〈国際的連帯が価値を創造〉
 第二に申し上げたいことは、「環境協力で共生の地球社会の礎づくりを」という点であります。
 私は現在、世界的な環境学者である、ドイツのヴァイツゼッカー博士と「持続可能な地球社会」を構築するための方途を探る対談を行っております。
 その博士の言葉に、「われわれはまた、環境の世紀において現在のものとは根本的に違ったまったく新しい文明・文化を必要としている」(宮本憲一・横田貢典・佐々木建 監訳『地球環境政策 地球サミットから環境の21世紀へ』有斐閣)との問題提起がありましたが、その一つの方向性を示しているのが、貴国が掲げておられる「生態文明」であるといえましょう。
 また私と年来、交友を深めてきたアメリカのキッシンジャー博士も今年6月、貴国を訪問した折、「生態文明」をめぐる取り組みを踏まえて、「環境に関する取り組みは一国だけで実現できるものではなく、多くの国が共同で実現しなければならない」との観点を強調しておられました。
 私も同様の信念に基づいて、7年前に「日中環境パートナーシップ(協力関係)」の構築を提言し、その柱として先ほどの「環境教育の推進」に加えて、「環境汚染の防止」と「省エネルギー・循環型社会への転換」を挙げたことがあり、今年の提言でも、中国と日本が共同で主導する形で「東アジア環境協力構築」の設立を目指していってはどうかと、提案いたしました。
 両国での協力をはじめ、環境問題における国際協力の輪を幾重にも広げていくことは、共に「プラスの価値」を創造し、共に「希望の未来」を築いていく挑戦であり、「共生の地球社会の礎」へと結実していくに違いありません。
 万年の未来を見据えて、その国際協力の大道を幾重にも開きゆくことこそ、将来世代に贈ることのできる、最上にして最高の財産ではないでしょうか。
 一、こうした地球的視座に基づく国際協力の重要性を説いた、ローマクラブの創設者ペッチェイ博士と、環境問題に対して「手遅れにならないうちに」と警鐘を鳴らしゆく対談集を発刊して、まもなく30星霜を迎えます。残念ながら、地球と人類を取り巻く環境問題は、いやまして深刻さを増しております。
 しかし、私の胸には、ペッチェイ博士の信念の叫びが今も響いて離れません。
 「人間は一人一人の中に理解力、想像力、独創力を豊富に蓄えており、そのうえまだ活用されていない、いや顧みられてすらいない道徳的資質を、豊かに備えています」「これらの蓄えは系統的に開発することができます」「そうすることによって初めて、人類はついには現状を逆転することができるでしょう」と。
 地上の資源は有限であっても、人間生命の可能性は無限であり、人間が創造する価値にも限りがない――私はこのことを、本日、お集まりになられた、尊敬する諸先生方と共に、確かめ合いたいのであります。
 最後に、今回のシンポジウムが、人類の新たな地平を切り開く大いなる一歩となることを願ってやみません。
 本日は誠に、誠にありがとうございます。
 謝謝(シェシェ)! (大拍手)
   (聖教新聞 2013-12-06)